あの頃の誰か / 東野圭吾

光文社文庫から、東野圭吾氏の文庫本が2冊同時に刊行されました。そのうち「ダイイング・アイ」の方は単行本で読んでいたのですが、もう1冊の「あの頃の誰か」についてはまったくのノーマーク。書き下ろしかと思いきや、なんとこの本、東野圭吾氏がこれまでに執筆してきた小説の中で、ワケあって単行本化、文庫本化されなかったものを集めた短編集でした。
初出一覧を見ると、

  • シャレードがいっぱい (コットン'90年11月号)
  • レイコと玲子 (コットン'91年6月号)
  • 再生魔術の女 (問題小説'94年3月号)
  • さよなら『お父さん』 (小説宝石'94年7月号)
  • 名探偵退場 (『やっぱりミステリーが好き』新潮社 '90年6月刊)
  • 女も虎も (IN★POCKET'97年7月号)
  • 眠りたい死にたくない (小説新潮'95年10月号)
  • 二十年目の約束 (別冊小説宝石'89年12月号)

と、どれも年代物。とくに1話目の「シャレードがいっぱい」なんかは、「アッシー」「メッシー」なんて言葉が飛び交ったり、携帯電話がまだ珍しいものとして描かれていて、バブル真っ盛りなおはなしでした。
個人的に良かったのは、「再生魔術の女」と「さよなら『お父さん』」の2本。特に、「さよなら『お父さん』」については、東野圭吾氏の代表作である「秘密」の原型になった作品で、短編から長編へどういうふうに話が膨らんでいるのかも分かって興味深いです。
あとがきには、1本ずつそれぞれのエピソードについて東野圭吾氏が私見を述べていて、どちらかというとそちらをニヤニヤしながら読むほうが楽しい一冊でした。

あの頃の誰か (光文社文庫 ひ 6-12)

あの頃の誰か (光文社文庫 ひ 6-12)