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歪笑小説 / 東野圭吾

○笑小説シリーズの最新作。シリーズといっても、集英社から出版される短篇集の名前なので、各巻のつながりみたいなのはあまりありません。
本作では、小説出版業界が舞台になっていました。恥も外聞もなく様々な手段を取って人気作家の連載をものにする敏腕編集長や、読者の目ばかり気にしてしまいなかなか筆が進まないヒット作症候群の作家、とある出版社が文学賞を創設するドタバタに、小説誌の職場見学にやってきた中学生の厳しい指摘にドギマギする編集者。どの話も魅力的で、楽しめました。
特に印象に残ったのは「最終候補」「小説誌」「職業、小説家」の3編。
「最終候補」は、会社勤めをしながら執筆してある文学賞に応募した小説が、最終候補に残ってしまったために、会社を辞めて作家として独立するかどうか悩む男の話。会社員なら誰でも一度は思う「作家にでもなって悠々自適に暮らしたいなぁ」という願望がいかに見当違いなものかをわからせてくれます。東野圭吾氏自身は、会社勤めの傍ら小説を書き、江戸川乱歩賞を受賞後に専業作家に転身するという経歴なので、そのことと照らし合わせるとより楽しめる短編です。
「小説誌」は、文芸誌の編集部にやってきた中学生が、文芸誌のおかしい点を突っ込みまくるという話。「900円もするこの雑誌はだれが読んでいるのか?」という問いから、「連載終了後に書きなおして単行本にするなら単行本だけ出版すればいいのでは?」「単行本化の際に書きなおすということは、連載されている文章はまだ仕上がっていない言わば不良品なのでは?」みたいな厳しい指摘がたっぷり並びます。それらの問いに対して返す編集者の言葉がケッサクでした。
「職業、小説家」は、文学賞を受賞した新進気鋭の若手作家が、結婚の挨拶に恋人の実家を訪れる話。小説家、という不安定な職業に、相手のお父さんは当然不安を覚えます。お前はいくら稼げるんだ?みたいな問いに対して、一年間にいくらの単行本を2冊出して、印税がいくらで、それに加えて原稿が一枚4,000円で年間にXX枚書ける計算だから、XXX万円が僕の最低年収になりますと正直に答える作家。これだけがんばって文章書いてもこれだけなんだなーと思ってしまいました。また、最後に小説何か定価で買わずに図書館で借りるか中古で買ってまた売ればいいんだという人物が出てきて、それへの反論が熱かったです(同じようなことを、東野圭吾氏はエッセイやインタビューでも語っていますが)。
最後の最後、寒川心五郎先生へのちょっとしたサプライズにも思わずにんまりでした。

歪笑小説 (集英社文庫)

歪笑小説 (集英社文庫)